青年劇場『星をかすめる風』(別府市民劇場で観ました。あなたに是非観て欲しい舞台です)

にいさん

2023年09月26日 18:49




 青年劇場の舞台『星をかすめる風』は、これからも各地の市民劇場さんで上演されるそうですが、今からまだ間に合う人は、最寄りの市民劇場でこの作品を観る為に入会してでも観る価値のある作品!だと思いました。是非今こそ、この舞台に触れて欲しいので、ネタバレにはくれぐれも気をつけての感想となります。

 イ・ジョンミンさんの原作を、シライケイタさんの脚本・演出による青年劇場の舞台。やはり青年劇場は「演劇界の良心」だなと、改めて感じさせられる作品。

 物語は、ユン・ドンジュという実在の詩人の「実話」を基に……彼の人生の終幕に関するアウトラインは実話がベースである事を強調しておきたいです。あんな恐ろしき事が行われていた……


 渡辺さんの言う通り、

 「誇れる嘘」よりも……

 というのは、まさに今現在のこの国に対して突き付けてくる言葉のように思いました。

 
 1943年、福岡刑務所で「鬼看守」と呼ばれていた杉山が殺されました。配属されたばかりの若い看守・渡辺は、その杉山を殺した殺人犯の捜査を任されることになりました。(警察に事件を通報するのではなく?内内に問題を処理しようと?)おまけに杉山が任されていた検閲係の業務まで引き継がされて、困惑しながらも彼・渡辺は、杉山を殺した犯人が誰か、杉山とはどのような人物であったのか、「その事件の背景」には一体どのような事態が展開されていたのか?

 渡辺は、捜査を進めるうちに、あるひとりの囚人に辿り着くのです。彼の名は平沼東柱。本名は尹東柱(ユン・ドンジュ)治安維持法により逮捕されてしまった政治犯ですが、しかし、彼自身は一体何をしたと言うのか…?

 (この治安維持法による逮捕が2年前。悪名高きこの法律によって〈こんな法律さえなければ…〉捕まることさえなければ、彼は戦無き世に、沢山の詩を解き放ったことと想像するだに……悔しくてならなかった)

 殺された杉山のポケットに、彼・尹東柱の詩が書かれた紙が入っていたのです。

 尹は言います『杉山さんは素晴らしい人だった』と。又、看護師の岩波さんも『杉山さんは芸術を理解する心優しい人だった』と言うではないですか?一方で、他の朝鮮籍の囚人たちからは『あいつには何度も殴られた』『殺されて当然』!?何という恨みと嫌悪の嵐か。

 どっちなん?

 まじで?って観ながら「???」まさに息詰まるミステリーが展開していく事になっていくではありませんか?(題材はとても「面白い」なんて言葉さえ憚られるような内容にも関わらず、謎解きのミステリーがぐいぐいとこちらの心を掴んでいくのです)この先どうなっていくんだ!?杉山という男が気になり過ぎて気になり過ぎて。

 杉山は、ある時期を境に(囚人が骨折する程の)酷い暴行を続けていった事。

 囚人のたちには、ある共通の体験が認められた事。

 それも、体調不良を訴える囚人の人たちに共通の。

 ある日、地獄のような刑務所に、聖人の如き偉い人がやってきて、囚人たちの目の前で、看守による暴力を控えてもらいたい旨を伝え喝采を浴びるのですが、

 いや、この人については、これ以上触れないでおきます。(舞台で、しかと見届けて欲しい )

 武力による抵抗を志向する囚人、俗物の所長、音楽を愛する看護師に詩人の政治犯。濃ゆい登場人物たちもそこに複雑に絡んできながら、物語は思いもよらない展開に進んでいく事になります。

 いや〜、びっくりした。

 そして、なんとおぞましく、許しがたく、そして、「美しさ」さえも孕んだ悲しい物語。

 是非、あなたの目で、この舞台を目撃してください。



 うん。これは、今のこの国に向けられた作品だと思いました。だから、この国の全ての人に、観て欲しい作品です。