にいさんの しらしんけん☆

島ないちゃーの劇団員。上村洋さん 通称にいさんのブログ。
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『獅子の見た夢』(別府市民劇場第125回例会)


『獅子の見た夢』(別府市民劇場第125回例会)



 別府市民劇場第125回例会で劇団東演『獅子の見た夢』を観ました。史実に関するところは触れますが、ネタバレ抑え目に。



 彼岸と此岸とを対話させる術を、文学は持つ。

 演劇もまた然り。

 想像の産物と言われればそれまでだけれど。

 三好十郎と彼ら「桜隊」「苦楽座」の再会を、確かに感じた。というか、その前の稽古場の場面以上に、彼らは熱気を帯びて、リアルに生きてそこに居た。


 彼らを葬り去ったのは、アメリカが投下した原子爆弾。

 核兵器だ。


 1940年。戦争に突き進む軍国日本は多くの演劇人たちを検挙・投獄しました。「平和を求める言葉」「政権批判の言葉」「時局に相応しくない」「国家の提唱する道徳に反する」とにかく権力が気に食わないものは片っ端から。表現の自由どころか権力の目から見て気に入らないものは即命の危険に繋がる時代。(そこまでの危険は無いと思われるが、自ら権力に忖度し自主規制を行う者との対比をどうしても考えさせられてしまうわけで。それは私自身の姿も省みずにはいられない。普段の生活で。blogやSNSでどれだけ忖度せずに発信出来ているというのか? 他者を踏まない表現への配慮であるとか、過去の経験からの、悪質な人たちへの対策の工夫であるとか、それらの言葉遣いが、結果、力ある者への忖度に繋がったり、はっきりとものを言わぬ事に繋がらないようにと自分に言い聞かせつつ)

 検挙を免れた劇団は戦争遂行を支援する為のものに限定されていくその中で、演劇人たちは知恵を使い続けていくのです。慰問公演の移動演劇連盟への強制加入という理不尽の中、「ふたつにひとつは好きな演目を演じて良い」という(但し、公演に際しては国家への忠誠を示す唱和だかなんだかをやらなければならないがという条件はあるらしいが、という)道を選ぶ事によって、彼らは三好十郎の『獅子』という演目を選びます。そう。僅かな隙間から活路を見いだそうとした。

 『獅子』を演じることは、彼ら苦楽座(桜隊)にとっての抵抗なのです。

 「家」制度の呪縛から自分を解き放つ主人公の姿に託して。彼女を見送る父親の獅子の姿にその思いを託して?

 しかし、戦争は劇団のメンバーひとりひとりの人生にも影を落としていくのです。特高に監視されるベテラン団員が取った決断。母と租界に行くかここに残って芝居を続けるか。赤紙がきた団員。

 「武勲を…」「いや、駄目だ。ここにいる我々は、それを言ってはいけない」

 警戒警報で、また稽古は中断を余儀なくされる。

 戦時下の演劇人の葛藤が実に生き生きと、まさに目の前の俳優たちの肉体を通して伝わる迫力が。そんな彼らの舞台を観た当時の人たちは、どんなふうに観たのだろう? 何を思ったのだろう? そんな事にも思いが広がりました。

 残念ながら、時代が流れても、その痛みの記憶が薄れていく頃、権力者は再び似た過ちを繰り返すと教えられてきました。この桜隊の物語は、これからも繰り返し語られなければならない。演劇人の先輩たちはずっと続けてきたその姿をずっと見てきた。時には舞台の上から。時には制作の現場から。目の前の利益以上に大事なものと向き合っているという現実は、今の演劇の世界も変わらない。(但し、経済に無頓着で良いとは言わない。いつもギリギリだった。三好十郎は勝手な事を言うものだと、半分羨ましくもなりながら、正直思った)それがいつのまにか「演劇=ショービジネス」のような印象を持たれたり、「演劇人はメディアの擁護ばかり」等とSNSにあがるのは非常に不本意に感じています(し、ワイドショーに出てる人らが演劇界を代表してるわけじゃないから。演劇人の考え方は舞台を観て知って欲しい。そこでの批評ならばわかると言いたいところ。しかし生の演劇を観に来るお客さんは決して多いとは言えない。だからこそ、市民劇場の話題を発信しているところもあります)。戦前からずっと、演劇人は平和を訴え続けてきたし。戦争が奪っていったもの・ことについて語り続けてきたのです。それはこれからも、そうあって欲しいと願っています。


 

 先日のノーベル平和賞に、日本被団協が選ばれた事の意味と共に、この『獅子の見た夢』上演の意義について、改めて考えさせられます。核兵器など存在してはならないし、戦争は起きてはいけない。断固として。


#FreePalaestine
#StopGazaGenocide
#ロシアはウクライナへの侵略をやめよ
 


Posted by にいさん at 2024年11月30日   12:05