にいさんの しらしんけん☆

僕が、仕事で東京から沖縄に通うようになって間もない頃の事。あるSNSを通じて友人からパーティーに誘われた。

パーティーの場所は、那覇市首里にある高台のホテル。僕が滞在していた泊地区のウィークリーマンションからは、まっすぐ歩いて30分の距離だ。（この時の僕は、当時住んでいた東京から数週間単位で沖縄に滞在して、自分の所属する劇団の沖縄公演をセッティングする仕事をしていた。）

五月の あのじっとりと汗ばむ夕方、僕は歩いて首里のホテルに向かった。

このパーティーが、自分の人生の中で、大きな意味を持つ事になるとは この時の自分にはまだ想像も出来なかった。ただ、得体の知れぬわくわく感と、多勢の知らない人間達の中に飛び込んでいく事の 恐怖感と紙一重のドキドキ感とが胸を満たしていた。


僕はその、高台の立派なホテルの玄関に 足を踏み入れた。


正面の看板にはこう書かれてある。


「パラリラ集会 会場」


パラリラ集会。

これまでの35年間の僕の人生の中には、まず存在すらしなかった言葉だ。

周りを見る。まるで結婚式かなにかのような雰囲気の着飾った人達に混じって、どう考えても普段着にしか見えない男性。逆に派手過ぎな男性達の姿もある。（女性は皆ドレス姿だったと思う）結婚披露宴の会場とは、ちょっと違う。ちょっと違うというか、ちょっと怪しい人達だ。見た感じの年齢層は結構広い。

そして、ほとんどの人が、皆一様にテンションが高い。（すでに、酔っているらしき人までいる・・）

自分のように所在無さげに、おとなしくしている人もいないわけではないけれど、明らかに皆地元のウチナーンチュばかりのように見える。まるで同窓会で再会し合った友人同士のように「久しぶり〜」とか「元気ね〜？」などと言う言葉が飛び交う中を足早に通り抜けながら、僕は少し後悔し始めていた。

やっぱり、好奇心から内地の人間がフラッとやって来たのは間違いだったのかもしれない。知らない人ばかり、小心者の自分には凄く心細い 。

半ば後悔の念に駆られながらも、僕はこのパラリラ集会なるパーティー会場の中を、お目当ての人物を探して必死に歩き回った。

メールのやり取りで言われた待ち合わせ場所を探り当てると、特徴的な後ろ姿が目に飛び込んできた。

僕は思い切って声をかけた。

「あの〜、青の軍団さんですか？」

すると、特徴的な大きな後ろ姿が振り返って 言った。

「あぁ〜、にいさんですよね！ようこそ！」

彼の人懐こい笑顔に、この時初めて 僕は安堵した。

そう。僕は「にいさん」と呼ばれている。ペンネーム「にいさん」。

ここは、沖縄のラジオ局 ラジオ沖縄の主催する リスナーと番組スタッフの集う大パーティー「パラリラ集会」の会場だ。



僕が沖縄に通うようになったのが、このパーティーの四ヶ月程前の事。

移動手段であるレンタカーの中で、不思議な言葉のやり取りが、カーラジオから流れてきたのが そもそもの始まり。

人気番組「ティーサージパラダイス」のMCは、具志川訛りという 不思議な中部訛りを話す ひーぷー という人だ。いつも不機嫌そうに理解出来ない方言でわじっているが、よくよく聴いていると、どうやら悪い人ではないらしい。リスナーとの間の これまた不思議な親密な絆のようなものが ラジオを通して伝わってくる。

言葉が充分に理解出来ない事も手伝ってか、何故かジェラシーのような感情が 僕の中に芽生えている事に気付き、戸惑いを感じてしまった。とにかく それくらい 「楽しそう」なのだ。


もう一つの看板番組「チャットステーションＬ」のMCは みーかー と呼ばれるよく笑う女の人だ。この人は、とにかくよく笑っている・・かと思うと シンミリとするメッセージには遠慮なく号泣し、遠慮なく 喜怒哀楽をはっきりと表明する人らしい。年齢は僕より若いらしいが、僕のイメージする沖縄のお母さん像にぴったりだ。おおらかなお姉さんである。こちらもやはり、ティーサージパラダイスの ひーぷーさん同様、リスナーさんとの深い絆のようなものがあるようだ。（ちなみに、こちらの話す言葉は、具志川訛りほどには難解ではない。）

この二つの看板番組をはじめとするラジオ沖縄の番組に、僕は気付くと夢中になっていた。

SNSで、ラジオの常連リスナーさんとも知り合う機会も持ち、すすめられるままに投稿したところ、なんと幸運にも自分のメールが採用された。（人生初のラジオ投稿体験。）

そして、何年かに一度行なわれるという リスナーとラジオ局との聖なる宴「パラリラ集会」に参加してみませんか？という誘いに、迷った末に 僕は参加してみる事にした。


青の軍団さんのエスコートにより、僕はたくさんのリスナーさんと一度に知り合う事が出来た。

中には、内地（他県）どころか 海外から参加したという女性リスナーさんもいたり、実に幅広い人達が 年齢も職業も住む場所も越えて集まっている事を知る。

そして、局アナさんや番組MCさんに匹敵する程の（？）超有名リスナーさんがたくさん（！）こんなミーハー心が騒ぐのも久しぶりだ・・

青の軍団さんの他、ゆぐりはいからーさん、麦芽100％さん、ミックさん、ピースさん、内緒さん、ましゃレボリューションさん、あの娘に伝えてジャングルハンマーさん、あたびちさん、ともぶんさん、くわがなーさん・・ 他 数えきれない有名リスナーさんやSNSで知り合っていたリスナーさんと、直にお会いする事が出来た。これだけでも、僕は感激だった。


そして、壇上に上がった-ティーサージパラダイスのMC ひーぷーこと真栄平仁さんを僕はこの時初めて見た。（この坊主頭のニィニィが、ひーぷー・・）

みーかー こと玉城美香さんは、おめでた との事でこの日は欠席だそうだ。（これは残念。）

又、自分が沖縄に来るようになったのとほぼ同時期に番組をはじめた夫婦のミュージシャン ・アイモコにも会う事が出来た。（僕はこの二人の歌とおしゃべりが大好きだ。）

こんな 新鮮な わくわくするような高揚感はいつ以来だろう・・

僕は、最初に感じた あの不安な気持ちが嘘のように、その場の空間に夢中になっていた。リスナーさんとも たくさんおしゃべりをしていた。

「あ、内地から来た人ですよね。ラジオでもメッセージ読まれてましたよね〜。」

「沖縄に来てくれて、ありがとう。」

そんな言葉をかけられる。


僕は、この人達が好きなのだと気付く。

そして、この場所が好きなのだと気付いた。


これまでの人生で、こんな経験。こんな気持ちは 初めてかもしれない。


僕は今、沖縄に移り住み（住民票もこちらに移し）いわゆるシマナイチャー
として生活している。

あの初参加のパラリラ集会から6年。今では自分からもリスナーさんに呼びかけてオフ会を開いたり、リスナーさんの輪の中にどっぷり浸かっている。

リスナーの輪は、石垣島でも、九州でも広がり、今や 全国各地で、ラジオ沖縄の交流は行なわれているそうだ。（今や、パソコンやスマホのポッドキャストというシステムで、世界中でラジオ沖縄の番組は聴かれている。）

その理由のいくつかを、僕は知っている。

でも、ここではもう、語る事はたぶんない。

ラジオの周波数を864に合わせれば、そこに答えはあるのだから。


















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