にいさんの しらしんけん☆

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若き命をかけた切実華麗な名文のすべて!!(by瀬戸内寂聴)【伊藤野枝集】岩波文庫版読了。


https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b473145.html

とある先輩のご縁で手に取った一冊でしたが、この伊藤野枝という人物の生き様、その文章に引き込まれてしまいました。

この森まゆみ編【伊藤野枝集】には1912年から(虐殺される間際の)1923年までの彼女の多分野にわたる文章(創作、評論、書簡)が収録されています。

これまでの(自分の)伊藤野枝という人に対するイメージが-元々好意的なイメージではありましたが-大きく変わりました。これまでの表面的な「時代を先取りしたフェミニストでありアナーキスト」という言葉ではとても語り尽くせない彼女の魅力・強さが伝わってくる一冊でした。

またひとり好きな「近代の偉人」が増えてしまった(笑)(自分がもし大河ドラマに誰かを取り上げる権限があるのなら、龍馬や西郷どんよりも断然「のえこ」でしょ!って思うよ・・今はそんな気分です(笑))

今から100年前のこの国の景色の「素の姿」が瑞々しく浮かび上がってくるこの文章力。おそらくは自力で身に付けた?彼女のこの文法の個性は今読んでもわかりやすく、凄く素直に入ってくることにも驚かされます。

そして何より このひとは強い。

女性が意見を述べることそのものが良く思われない風潮の中で、権力と毅然と向かい合い、論敵(?)とのバトルでは一歩も引くことはなく、

そして、「恋のバトル」にも勝利してしまうという・・(驚)

以前、映画で石田えりが伊藤野枝の役を演じていたこともあって(実際に野枝さんはかなり男性からも好意を持たれていたという・・)自分の中のイメージでは限りなく「麻宮サキ」な方向に膨らんでいたのですが・・そこは意外と?そんなには外れてはいなかったかも-と勝手に解釈してしまう私であります。

自由恋愛などが許されないような時代に(最初の戸籍上の夫は今まで一度も会った事もない男性で、それを絶対的な存在たる叔父の一存で全てを一方的に決められるのですが、この時代ではきっとありふれた結婚のケースだったようです。もっと更に酷い『因習』についても野枝さんの文章によって明らかになり、現代を生きる自分としては驚かされるばかりです・・)そんな時代に「家」や「社会」に逆らって、自らの恋愛に忠実に生きるということがどれだけ大変な事だったか。しかもパートナーもパートナーで一筋縄ではいかない人物であるところもまた最高過ぎますよ。(この恋のドラマも半端ないんだな・・汗)

『いったん結婚したからには一生を夫に捧げ、子どもを産んで、家を守ることを求められ、ときに夫に性病を移され、ときに子を生さないために里に帰される、といった一方的な「離縁」が主流であった時代に』(解説より)自分の生き方もパートナーも自分で選び取ろうと闘ってきた野枝は、

「私は人間が同じ人間に対して特別な圧迫を加えたり不都合をするのを黙って見てはいられないのです」

との言葉通りの人生を全うしたひとでした。

そしてこのひとの文章を読みながら最も感銘を受けた点として、この伊藤野枝というひとは、決して大見得を切って派手に革命を叫んだり、誰よりも目立とうとしたり(今でも時々いるよね・・)偉ぶった視線で誰かを見下すような事もなく、ただただ自分の生き方として日々を淡々と生きながら、むしろ周りで諍いがあれば間に入ったり、相手に寄り添ってとことん話を聴いたり、どちらかというと、静かに周りを客観的に見つめながら、日々自分の中で思索を深め続けてきたひとだったように思います。あくまでも「ひとりの人間として自然に生きる」普段は「普通」という言葉を私は好みませんが、あえて「普通」という言葉を使わせてもらうならば「ただ伊藤野枝という人間として『普通』に生きること」を貫こうとしたひとだと思えたこと。そこがこのひとの魅力ではないか。と思わずにはいられなかった。

ただし真面目さと意志の強さは人並以上だったのかもしれません。

しかし彼女のその姿勢に対しては、周りが(時には過剰に?)激しく反応し、一部のある人たちを恐れさせてしまったようです。

権力を持った者が暴力によって特定の思想を持った人間の命を奪うなど、たとえ(因習や男尊女卑にまみれたそんな)当時の日本であっても、とても正当化出来るものではありませんでした。しかし彼女らを殺した軍人は裁判を受けますが、たったの禁固10年の刑とは・・(そして実際には10年も経たずに釈放されたと伺いました。)

後にガンジーやキング牧師が世界に対して「可視化」してみせたように、権力による暴力とは、時にはそれを行使した者の敗北を意味します。彼女は国家権力にもある意味勝利した?いいや、そんな勝利いらねぇから生きた彼女を返してくれよ。という怒りでいっぱいになる。

後の研究によっては、虐殺した軍人は上層部の指示によるものだったとか?彼女と大杉栄と甥の3人の虐殺死には様々な研究がなされているそうです。

あの前後の時代を懐かしむ向きが一部にあると聞きます。時代の空気が今また-なんて語られることがあります。あそこまで時代の空気が染まってしまった時に彼女のような姿勢が貫けるだろうか。しかもあれだけ女性が不利な時代において、それを一市民として、自分の「生き方」を正気を保って続けられるだろうか・・なんてことを考え込んでしまいました。


又、彼女の考えるアナーキズムへの捉え方、同志でありフェミニズム運動の先輩-平塚らいてうへの眼差し。愛する大杉栄との往復書簡。当時以前までの日本の各地方での自治の在り方など興味深い事柄もたくさん(!)野枝の討論記録など他にも収めきれなかった文章もあったらしいけれど、ここには森さんが「彼女の人間性がよりよく伝わるようなもの」を選び取って掲載した一冊となっています。これだけでも読み応え抜群!

吹けよ あれよ 風よ あらしよ

そんな彼女の人間性が伝わってくる、是非お勧めしたい一冊です☆




男性にも是非読んで欲しい一冊ですよ(=゚ω゚)(日本ではMeTooのMovementが根付いてこないと言われる原因は、男性にこそあるのではないかと感じます。女性の闘いの歴史を自分自身もっと知らなきゃいけないな-と思った次第です・・)







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Posted by にいさん at 2019年11月14日   20:52